早起きするクリエイター

仕事も、人生も、
朝が変えてくれた。

増山 慶彦/アートディレクター

密かに増えている、朝型クリエイター。

広告やデザインに関わるクリエイターの生活と言えば、
やはり「夜型」というイメージが強い。
いいアイデアが浮かばなくて、気がつけば朝日が…などということもよくあるだろう。
しかし、最近、そんな固定観念や常識に変化の兆しがあらわれつつあるという。
それが、「朝型クリエイター」の密かな増加だ。
今回、取材したアートディレクターの増山慶彦さんもそんな「朝型クリエイター」に転向したひとり。
株式会社クーヘン』で企業パンフレットやマス広告などを手がける彼に、
朝型の暮らしがライフスタイルやワークスタイルに与えてくれたモノ・コトについて話を聞いてみた。

誰よりも夜型だった、
新人デザイナー時代。

増山さんは今から9年前、美術系の学校を卒業。映像制作会社を経て、
デザイン会社に転職。デザイナーとしてのキャリアをスタートさせた。
まずは新人時代の働き方・暮らし方を振り返えっていただくことに。

増山 学生時代から課題制作で夜遅くまで作業していたこともあり、クリエイターらしい夜型の生活にはすぐに慣れましたね。僕たちの仕事には、必ずと言っていいほど、締め切りがあります。つまり、期間内で必ず、カタチに仕上げないといけなくて。徹夜して、翌日も深夜まで仕事して…なんてこと、日常茶飯事でした。

誰よりも夜型な新人時代を過ごしていた彼が朝型になったのは、社会人3年目のころだった。

増山 当時はシェアハウスに暮らしていたので、家にいても職場にいても、プライベートな時間がなかったんです。読書が好きなので、ひとりでじっくり考える時間を確保したいと思っていて。“ちょっと早起きしてみようかな”くらいの軽い気持ちからトライしてみました。

暮らしを変えたら、
アイデアも変わった。

半ば実験的な気分で朝型生活をはじめてみたという増山さん。当時はどのように朝の時間を過ごしていたのだろう。

増山 6時ころに起きて、身支度ができたらすぐ出かけるようにしていました。目的は朝食。近所にあった喫茶店に入り、モーニングセットを注文するのが習慣になりましたね。そこから2時間ほど、本を読んだりアイデアを考える、プライベートな時間を設けました。そして、始業時間より前に出社する。最初は気分転換のつもりではじめたものも、だんだんその時間が心地よくなってきて。今ではすっかり、朝型人間になりましたね。

そんな朝のひとときは、増山さんの仕事にも影響を与えたという。

増山 普段から思考が整理できるようになったんです。早起きしてしばらくすると、頭がすっきりしますよね。その感覚のまま仕事に入れるので、いいアイデアが出てくることが多いんです。

空になった頭に次々と浮かんでくる、たくさんのアイデアたち。朝型のライフスタイルは、クリエイターにぴったりな暮らしなのかもしれない。

早起きしなかったら、
あの人にも
出会えなかった。

増山 僕の周りにも、同じように早起きしている人がたくさんいて。似たもの同士、何か通じるものがあるんじゃないかと思ったんです。そして、情報交換の場として、カフェなどで語り合う「コーヒーミーティング」に参加するようになりました。

そこで出会った人は事務員から営業、業界の大先輩まで、職業も年齢もさまざま。

増山 狭くなりがちな視野を広げてくれるこの時間が、アイデアの手がかりになるんです。

さらに、プライベート面でも、朝型のライフスタイルに変わったことで、大きな変化があったらしい。

増山 朝の喫茶店は、固定のお客さんしかいないんです。ましてや、天気が悪い日はお客さんが僕しかいないときもありました。そこで何気なく話すようになった店員さんがいて。次第に仲良くなっていったんですよ。実は、その方が今の妻なんです。

千載一遇の出会いが朝にあったなんて、彼も想像していなかったそう。生活のリズムを変えただけで、日常にこんなドラマチックなできごとが訪れることもある。そう考えたら、朝型の生活が一層、魅力的に感じられるだろう。

心地よい朝のために、
夜をリデザインする。

気持ちのいい朝を迎えるためには、朝のことだけ考えていればいいというわけではない。朝型クリエイターの増山さんは、夜の過ごし方にも並々ならないこだわりがあるという。

増山 夜、家に返ったら、できるだけ明るくしないように心がけています。「あとはリラックスして眠るだけだよ」って、自分に言い聞かせて、眠りやすいムードをつくるんです。照明はキャンドルと豆電球だけ。読書灯としてちょうどいいくらいの、ほのかな灯りで毎晩過ごしています。

また、カーテンは開けたまま眠りにつくらしい。その理由もとても明解だった。

増山 太陽は天然のアラーム。毎朝、ちょうどいい時間に起こしてくれるんです。

さらに、普段の服装選びにオリジナリティーがあった。

増山 服のローテーションを決めているんです。その日着る服を考える時間やストレスをなくして、頭をすっきりさせたまま出社します。

現在は奥さまと一緒に朝食を食べてから、誰よりも早く出社しているという。

僕にとって朝は、アイデアを生むために必要な時間に。心もカラダも朝型になったおかげで、自然と変わった。
僕にとって朝は、アイデアを生むために必要な時間に。心もカラダも朝型になったおかげで、自然と変わった。

シンプルな暮らしが、アイデアを生み出す。

増山さんの現在の住まいは、都内の1LDKマンション。そこで夫婦2人で暮らしている。その住環境には、どんな工夫があるのだろうか。

増山 リビング兼ベッドルームには、テーブルやソファ、ベッド、本棚くらいしか置いていません。僕も妻も読書家なので、本棚には常にびっしり本が並んでいますよ。あと、何もない部屋もつくりました。この部屋では読書や仕事をしています。視覚から入る情報を減らして、なるべく集中できるように…と考えた末に、この部屋を思いつきました。風通しもいいので、時間を忘れて長居しちゃいます。

と、語る増山さん。思考を巡らせたあとは、ふらっと街へ。散歩しながら、カフェでコーヒーを飲みながら、頭を休めるのが楽しみだとか。最後に読者へのメッセージをお願いした。

増山 僕にとって朝は、いいアイデアを生むために必要な時間になっていきましたね。心もカラダもコントロールできるようになったのも、朝型になったおかげかも。夜型の生活に限界を感じたら、ぜひ早起きしてみてくださいね。きっと得るものがあるはずですよ。

夜型クリエイターから、朝型クリエイターへ。この転身は、彼にとって大きなターニングポイントになった。古くから「早起きは三文の得」
という言葉があるが、クリエイターにとっては、三文以上の得を連れてきてくれる、大きな可能性を秘めたライフスタイルなのかも知れない。

増山 慶彦さん

増山 慶彦さん

KucHen/アートディレクター

デザイン会社『株式会社クーヘン』に、アートディレクターとして勤務。グラフィックデザインを中心に、Webや映像などを通じて企業や商品の魅力を伝える、クリエイティブワークを手がける。