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鎌倉山で働き、暮らす。The Landscapers 塙さんがつくる、自然と一体になれる家

鎌倉山を拠点に活動する、ボタニカルブランド「The Landscapers」。ブランドを手がける塙正樹さん、麻衣子さんの自宅兼アトリエは、鎌倉の市街地から鎌倉山をくねくねと車で登った高台にあります。4年前、築42年の古家付き土地を購入し、家も庭も住みながら、自分達の手でリノベーションしたというおふたり。およそ200坪もの敷地で二人のお子さんと暮らす、塙さんご一家の自然に包まれた気持ちのいい生活を覗いてみましょう。

塙正樹さん、麻衣子さん

インテリア会社「IDÉE」在籍時に出会い、結婚。退社後、正樹さんはアパレル業界へ。麻衣子さんはデベロッパーで内装設計・施工を経験した後、植木職人に。2014年、鎌倉山への移住を機に「The Landscapers」を立ち上げる。正樹さんがディレクションを担当し、麻衣子さんがデザインやガーデニング、プロダクト制作を担当。自宅近くに旗艦店「AROUND」をオープン。小学生の娘さん、息子さんと4人暮らし。
The Landscapers 公式サイト:landscapers.jp

1階はほぼワンフロア。キッチン脇のパントリーは、家電置き場も兼ねている。2階寝室の隣にはウォークインクローゼットがあり、正樹さんの靴などのコレクションを並べるスペースに

鎌倉山へ移り住んだのは、そこに最高のロケーションがあったから

鎌倉に引っ越す前は、川崎市宮前区の新築マンションに住んでいたという塙さんご一家。植木職人をしていた麻衣子さんの希望で、庭付きの家を探し求めていたところ、偶然辿りついたのが現在の住まいだったといいます。

「実は、鎌倉エリアで家を探していたわけではないんです。修行元の植木屋にも近い、植木の里(横浜市青葉区)あたりで探していたのですが、偶然にも夫がこの場所を見つけてきて。場所的に仕事を続けられないし、210坪で超破格だったので、色々な意味で『ないでしょう!』と(笑)。半分冷やかしみたいな感じで、見に行ったんです」

庭にあるアトリエで作業をする麻衣子さん

内覧したとき、庭はジャングル状態。築42年の家は老朽化が進み、周囲は木に覆われて真っ暗。当時を振り返り「全然素敵じゃなかった」と笑いますが、足を踏み入れた瞬間、好奇心にかられたといいます。

玄関の明かり窓。この玄関に見惚れて、購入を決めたそう

「竹の柱とじゅらく壁(※)の玄関を見て、今じゃ作れない立派な造りに見惚れました。家の基礎もきれいで、建具、床材は無垢材。裕福な方がしっかり建てた家だと一目で分かりました。公園のような広い庭もあるから好きなようにできる。ここなら、理想の空間を自分達で作れると思ったんです」

※京都付近から産出される、土を仕上げに用いた土壁

立派な竹の柱が美しい

「仕事や生活が一変するので、さすがに迷いましたけどね」と麻衣子さん。しかし、そこは直感と物件のポテンシャルを信じて。内覧した1週間後には、契約書にハンコを押していたというから驚きです。

吹きさらしの家に住みながら、自分達の手で作り直す

大きな家具を置かず、広々としたリビング。壁には息子さんが作った「虹色みかん号」が

驚きといえば、解体中の家に住みながら、リノベーションしたことも然り。実は、植木職人に弟子入りする前は、住宅の設計や施工の仕事をしていた麻衣子さん。仮住まい費用をカットするために、住宅プランナー時代にお世話になった大工さんと施工業者さんに無理をいって、2階の和室に住みながら、工事を進めていったとか。

正樹さんのアイデアで残すことにした、リビングの梁

「窓もカーテンもないので、虫は入りたい放題(笑)。お風呂もなかったので、車に乗って銭湯に行ったりしていました。しんどかったけど、住みながらだったからこそ良かった面もあって。設計は私が担当したのですが、解体後の架構を見ながら “この梁は残そう” など、その都度夫と決めていくことができたのは良かったと思います」

残した柱に、2人のお子さんの身長を刻んでいる。成長の証が家族の思い出に

麻衣子さんのプランによって、リノベーションされたリビングダイニングは22畳。もともと90cm幅だったバルコニーは、広々としたウッドデッキに生まれ変わりました。このデッキから見渡せる庭は、1年かけて整備したそう。

「家よりよっぽどお金がかかったし、めちゃめちゃ大変でした。金木犀、梅、枇杷、ヒノキと、残す木を決めて、残りは伐採してもらい、ダンプカーを使って運び出したんですけど、10台分にもなったんですよ!」

「我が家の唯一の新築です」と、麻衣子さんが紹介してくれたのは、世界的な建築家、フランク・ロイド・ライトが魅了されたという「大谷石」を外壁に貼ったアトリエ

ここで「The Landscapers」の商品が作られる

広々とした庭の中央には、移住を機に立ち上げた、ボタニカルブランド「The Landscapers」のアトリエも建設。さらにもともと自生していた木々とマッチする木を植え込み、自然の趣き溢れる自慢の庭が完成しました。

こちらは、デッキの下に作られた温室。中では、The Landscapersの商品に使うエアプランツを栽培しています。

鎌倉山の緑にかこまれて、植物たちも生き生き。一つひとつの個性あるフォルムに、思わず見惚れてしまいます。

目指したのは、自然と寄り添う家

「梅の開花に春の訪れを感じたり、凛とした空気に冬の気配を感じたり。花や木に心を寄せ、四季を肌で感じて、日が沈む頃には仕事を終える。そんな人間らしい暮らしがしたいなぁって」

植木職人をしていた頃に感じた、“自然と寄り添って暮らす” ことの心地よさ。「それが子供達にとって “普通” であってほしい」という想いから、自然に包まれた住空間を作り上げたといいます。

学校から帰ってきたら、リビングの床でごろんと横になる

「日中は、庭やデッキにいる時間の方が長いかも」と麻衣子さん。晴れた日はデッキに絨毯を敷いて、子供達と読書をしたり、食事をしたり。各々お気に入りのブランケットや座布団持参で、めいめいに寛いでいるのだとか。陽だまりでまどろむ時間は、日常の中のささやかな幸せです。

ガラス張りの温室の横には、子供達のためにブランコを設置

「デッキで過ごす、夜のひとり時間もすごく好き。コーヒー片手にお月見したり、野生のリスやあらいぐま、たぬきを観察するんです。彼らに気づかれないよう息を殺して、ただひっそりと。動物や風にゆれ踊る庭の緑を眺めていると、ささくれ立った心が和らいでいくというか(笑)。心をリセットする大切な時間ですね」

いまだ未完成。我が家は、サグラダ・ファミリア!

扉や建具を極力設けず、リビングダイニングはすっきり開けたワンフロア。2階の和室は、全く手付かず。潔いほどおおらかに仕上げた塙さんのお住まいは、まだまだ完成ではないといいます。

タイルが印象的なキッチンの片隅には、お子さんから「まま おべんとうありがとう」という感謝のお手紙が

洗面スペースの床は、実はキッチンと同じ型のタイル。色のチョイスと貼り方に遊び心が感じられる

「必要最小限に仕上げて、初期費用を抑えたかったのもありますね。サグラダ・ファミリアじゃないですけど、竣工してからも作り続けています。一体いつになったら完成するんだろう(笑)」

入居後に設置したという本棚。インテリアに関する本や洋書が並んでいる。手前は、息子さんが練習中のドラムセット

入居後に手がけたのはトイレの扉、2階のウォークインクローゼット、リビングの本棚……。夫・正樹さんによると、次なる目標は、リビングの開口部。天井を高めにとり、フルオープンの折れ戸を採用したいのだそう。

「最初から完璧に作り込んでしまうと、あとは飽きていくだけ。暮らしや状況に応じて、手を加えられる “隙” がある方が面白いと思うんですよね。たとえば植物が好きなら『庭のある家』というより、『家のある庭』ともいえる我が家みたいに、自分の好きなものを始点にして家づくりをしてみると楽しいんじゃないかと思います」と正樹さん。好きなものを極め、住まいを育てるという感覚も、素敵な家づくりの秘訣なのかもしれません。

全力で働き、全力で遊ぶ。鎌倉山の気持ちのいいライフスタイルを発信していきたい

移住をきっかけに “家にいながら、グリーンを扱った仕事ができないか?” と考え、ボタニカルブランドを立ち上げたおふたり。ご自宅からほど近い場所に「The Landscapers」の商品を扱うショップ「AROUND」があります。

もとは地元で親しまれていたパン屋さんだったというお店の中には、グリーンの他にもアクセサリーから洗剤まで、日々の生活で役立ちそうなアイテムが美しく並びます。最近は、近所の人が贈り物を探しにお店に来てくれることもあるのだそう。

「鎌倉の人は、全力で働き全力で遊ぶ、気持ちのいい大人ばかり。ここは都心にも近く、アーティストやクリエイターが移り住んでいたりと、感度が高い。自然があって、海までの距離もちょうど良くて。たまたま辿りついた場所だけど、最高の場所だなって思います」

麻衣子さんの今後の夢は、過疎化しつつある鎌倉山を風化させないためにも、ここでの暮らし方の提案をより多くの人に発信していくこと。この場所に太く、深くつながっていたいから——。家との出会いはまさに運命。もっと自分の直感や、土地との縁を信じて「こんな景色を眺めながら暮らしたい」と惚れ込める場所に住んでみるのも素敵かもしれません。